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定期借家契約による賃料増減額請求の排除をミスした実例

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2009年8月10日 第748号

定期借家と賃料増減額請求


定期借家契約でない従来型の建物賃貸借契約では「契約期間中は家賃を増額しない」という特約は有効です。しかし「減額しない」という特約は無効です。「値上げしない」は有効でも、「値下げしない」は無効です。

「地借家法第32条 建物の借賃が…租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種…に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、…建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の賃料を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。」

「値上げしない」いう特約については、最後の「ただし」書きで有効ですが、「値下げしない」いう特約は「契約の条件にかかわらず」の一文により無効となるのです。賃借人に対する弱者保護の一環です。

賃借人は契約書に係らず「近隣相場が下がったから家賃下げてよ」と言えるのです。


不動産証券化に際してこれが大きな問題となりました。不動産を賃貸をしても常に値下げの可能性があり収益還元価格がしっかり機能しません。不動産を証券化し金融商品化するにあたり大きなネックとなりました。

2000年の借地借家法改正で「値下げしない」特約を有効にすることが可能になりました。

「借地借家法38条7 第32条の規定は、(定期借家契約)に規定する建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない。」

つまり定期借家契約においては「値上げしない」特約のみならず、「値下げしない」特約についても「法第32条の規定は…適用しない」こととなり、有効になるのです。

定期借家契約で中途解約不可にし、更に賃料増減額請求を排除することで、収益を完全に確定できるようになりました。

数年前からビル市場が堅調になり、貸主の立場が強くなったころから、ビル賃貸においてこの定期借家契約が急増しました。

住友林業 VS 森トラスト


さて2003年に東京駅前に森トラストが丸の内トラストタワーN館を竣工させます。住友林業と2004年7月から5年間の定期借家契約を結びます。共益費込み月額賃料33100円です。契約本文で「賃料の改定は行わないこととし、借地借家法第32条は適用しないものとする」と増減額請求なし特約を明確に定めます。

しかし契約交渉の段階で将来の賃料改定の特約が入り込みます。「上記の定めにかかわらず、2007年7月1日に、両者の協議のうえ賃料を改定できる」という内容で契約要項に特約を盛り込みます。

2007年1月に賃料相場上昇を背景に森トラストは坪55,000円への値上げを提示し、住友林業は拒否。森トラストは東京地裁に対して坪45,600円とする訴えをおこします。この通りなら差額は2年間で7億円にのぼります。

住友林業側は、契約要項の特約は紳士協定であり、契約本文の増減額請求なしの特約が有効、増減額請求なし特約が無効になるならその旨の規定があるはずなのにそれがない。増減額請求なし特約は有効、と争います。


しかし東京地裁は2009年6月1日に賃料増減額請求を認める中間判決を下します。

契約中途で「協議のうえ賃料を改定できる」と定めたのだから、それ以降は借地借家法38条7の「借賃の改定に係る特約がある場合」には該当しなくなる。だから第32条の家賃の増減額請求は生き返る、という結論です。

この中間判決は裁判をスムーズに進めるため「増減額請求できる」とだけ判じ「幾らにする」との結論はまだです。

まだ訴訟中です。中途半端な玉虫色特約がアダとなりました。特約するなら「それ以降はどうなる」と明確にすべきでした。

日経不動産マーケット情報09年8月号参照です。



定期借家契約による賃料増減額請求の排除をミスした実例 2009年8月10日 第748号



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